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『巨人たちの星』J.P.ホーガン / 4 ジェベレン人登場と物語の完結

 軽い気持ちで書き始めたがいいものの、いざ書き始めたらとんでもない量になってしまった『巨人たちの星』の話。僕ももっとかいつまんで書けばいいのにね。

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巨人たちの星 (創元SF文庫 (663-3))

巨人たちの星 (創元SF文庫 (663-3))

 

 

 昨日の続き。5万年前に人類の祖先であるセリアンとランビアンという二つの種族が太陽系第五惑星ミネルヴァで破滅的な戦争を起こし、惑星は破壊される。

 ミネルヴァを起源とするエイリアンであるテューリアンは自分たちが遺伝子操作で作り上げた人類に救いの手を差し伸べたのだった。そうしてセリアンたちは本来の故郷である地球へ、好戦的な性格を持つランビアンはテューリアンが自分たちの星へと連れ帰り、長きにわたって庇護し、ある程度の自治権を与え、地球の監視役を仰せ付けていた。ジェヴェレン人となったランビアンはジェヴェックスという高性能コンピューターシステムにより繁栄する。一方で、地球に関する報告は虚偽に満ちたものだった。

 

 なぜランビアン(=ジェヴェレン人)は嘘をついたのか。国連アメリカ代表のカレン・ヘラーはひとつの仮説を立てる。

 ジェヴェレン人は地球文明の黎明期から地球に干渉してきた。そしてわざと文明の発達を阻んできたのだ。そうして自分たちはジェヴェックスというコンピューターシステムを発展させ、将来きたるべき何かに備えていたのではないかと。

 

 その危惧は危険を冒してスヴェレンソンの邸宅に訪れたリン・ガーランド(ハントの恋人でもある)によって現実のものとなる。スヴェレンソンの家にはテューリアンの星で見た塔の模型があったのだ!スヴェレンソンはジェヴェックス人だったのである。

 

 ここに至って、ジェヴェレンの指導者イマレス・ブローヒリオが登場し、長期間にわたりジェヴェレン人がテューリアンを欺いてきたことが明らかになる。その目的は、ジェヴェレン人による宇宙支配と地球の奪還であった。ジェヴェレン人はテューリアンに気づかれることなく軍備を増強し、ある時点をもってテューリアンをブラックホールによって封じ込めようとしていたのだ。そして地球はジェヴェレン人の保養地として将来的にその役割を果たすことになるだろう・・・。

 

 『星を継ぐもの』を読んだ時点では全く予想もつかない展開となっている。もうここまで来ると巨大な陰謀渦巻く政治的な物語である。事実、ハントやダンチェッカーはかなり影が薄くなり(もちろん物語の鍵は握るのだが)、物語の中心はテューリアンとジェヴェレン人との心理戦の方へと移行してゆく。

 

 ハントたちの巧みな立ち回りによってジェヴェレンはシャピアロン号がすでにテューリアンに保護されたことを知らず、すり替えられたシャピアロン号を破壊する。そうしてぬけぬけとそれを地球人のせいにしてテューリアンに報告するのだ。

 ところがその報告の場でテューリアンたちに虚偽を指摘された上に、ハントら地球人が現れブローヒリオは驚愕する。カレン・ヘラーは雄弁にジェヴェレン人の企みを指摘し、返答に窮したジェヴェレン人は通信を遮断する。これはすなわち戦争の予兆であった。

 

 しかし惑星ジェヴェレンはジャイスターから何光年も離れた場所にあり、そこに移動するためにテューリアンのコンピューターネットワーク、ヴィザーブラックホールを作ろうとしてもジェヴェレンのシステム「ジェヴェックス」によって無効化されてしまうのだ。ジェヴェックスが稼働している限り、ジェヴェレン圏には移動ができないのだ。そこで旧型船であるシャピアロン号を送り込み、シャピアロンのこれまた旧型コンピューター「ゾラック」をジェヴェックスのシステムに侵入させようという計画が立てられた。

 

 もう、色々なネットシステムが入り混じり、好きじゃない人にはついていけない世界である。とはいえ、いよいよクライマックスである。事態は刻々と移り変わり、ホーガンはスピーディにその展開を描写する。『星を継ぐもの』のあの落ち着いた展開からは想像もできない。同じストーリーの線上にあるとは言え、もはや別のタイプの小説であるとすら思えてくる。

 

 ジェヴェレンではブローヒリオが側近たちと今後の対応について協議していた。建設的な意見を出せない側近たちを罵倒し、ブローヒリロは艦隊をテューリアンに送り込む計画を披露する。武器を持たないテューリアンが態勢を整える前に艦隊で心理的な圧迫を与え、降伏に追い込もうとう作戦だ。

 

 艦隊が送り込まれテューリアンは窮地に追い込まれる。そこでハントはあるアイディアを提出する。それは地球にあるスヴェレンソンの屋敷にあるはずのジェヴェックスの通信システムを利用し、地球には大量の軍備が整っており、すぐにでもジェヴェレンに攻め込めるという誤情報を流し込みジェヴェレン人を混乱させ、艦隊を引き上げさせようというものだった。

 かくしてスヴェレンソンの屋敷は地球人によって速やかに掌握され、スヴェレンソンは拘束される。そしてソ連に潜り込んでいたジェヴェレン人であるヴェリコフ(ほら!急にヴェリコフが出てきましたよ!)を寝返らせ、ブローヒリオに「地球は戦略軍を派遣した」という虚偽の報告をさせる。もはやこのあたりの展開はスパイ映画のようである。『巨人たちの星』でまさかこんな場面が見られようとは。

 

 虚偽の報告によりジェヴェックスコンピューターはほんの一瞬自己診断ルーティンに乱れを生じる。その一瞬のスキをついてシャピアロンのコンピューター、ゾラックがジェヴェックスのシステムに侵入し、それを足がかりにヴィザーはジェヴェックスに大量の誤情報を流し込むことに成功する。こうしてジェヴェックスはシステムに異常をきたし、ブローヒリオに12時間後には地球から大艦隊が攻め込んでくるという誤情報に基づいた報告をする。一気にパニックに陥ったジェヴェレン人たちは艦隊を引き戻すがすでにその先手をヴィザーが打っており、艦隊はブラックホールを介して宇宙の様々な場所へと飛ばされた。

 

 万策尽きたブローヒリオは軍事基地アッタンへと逃げ込み篭城しようとするが、そこにシャピアロン号が追いすがる!追跡用に複数の探査舟艇を飛ばし、ブローヒリオの艦隊に追いすがるガルース率いるシャピアロン号はこのクライマックスに大活躍。いいぞゾラック!シャピアロン!

 探査舟艇をミサイルと勘違いしたブローヒリオはブラックホールを出現させ、軍事拠点であるアッタンへと移動しようとする。しかし性急なジャンプは宇宙の領域に異常をきたし、時空の迷路へとジェヴェレン人は吸い込まれていった。シャピアロン号の一隻の追跡舟艇とともに。

 

 そうして最後の最後に、驚愕の事実が明らかになる。行方不明と思われたジェヴェレン人の最後をシャピアロン号の舟艇がブラックホールが閉じる直前に映像で伝えていたのだ。そこに写っていたのは驚くべき光景だった。

 なんと5万年前のミネルヴァだったのだ!

 まさかのタイムトラベル!?なんだか掟破りだが、ここですべての輪が閉じることになる。つまりは突然ミネルヴァにランビアンが現れ文明が急激に進化したすべての原因はこれだったのだ。そして、なぜ地球からのメッセージがテューリアンに届いたのかという謎もこれで明らかになる。

 シャピアロン号の舟艇は5万年の間そこに留まり、5万年後に月から発せられたガメニアン・コードによる信号をキャッチし、それをジャイスターに届けたのである。わー、よくできた話だなあ!

 タイムパラドックス的に多少の問題があるものの、それは一応ハントたちの話題には上がるがなんとなくはぐらかされている。それはきっとまた別の時系列の世界の話へとなるのだろう。

 そうしてエピローグ。映像を介してではなく、テューリアンたちが直に地球を訪れる場面で話は終わる。大団円もいいところだ。こんな素晴らしい作品を味わわせてくれたホーガンに感謝したい。次は「ミクロ・パーク」を読みますよ!

 

あー長かった
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