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「スタープレックス」「ビット・プレイヤー」そして「皆殺し映画通信」

 SF作品「スタープレックス」と「ビット・プレイヤー」の2冊読了。

冒頭に日本独自の企画だろうか、スタープレックス号の図解がある

 「スタープレックス」は王道の宇宙もので、ショートカットと呼ばれる建造者不明のゲート(ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーに出てくるワープの入口みたいなものか?)が発見されたことで飛躍的に宇宙を航行できるようになった未来。建造者不明のテクノロジーを使って外宇宙へ行くという設定はフレデリック・ポールの「ゲイトウェイ」でもあったなー。ゲイトウェイは、ヒーチーと呼ばれた異星人が残した設備を使って行先不明の旅に出るのだがそれがどのくらいかかるか、どこへ行くのかが全く分からないという恐怖と隣り合わせであったが、こちらは巨大な宇宙船がある程度の危険をあらかじめ確かめたうえでの探査となるので筋書きも当然変わってくるのだけれど。

 

 地球人以外にも3種族の異なる知的生命体が存在し、そのうちの地球族を含めたイヴ族(球体でサイドにホイールと触手が付いている)とヴォルフガード族(巨大な体躯で腕が四本あり、怪物的な見た目。地球人とは性格的に折り合いが悪い)の3種族は共同で出資し、巨大な宇宙船スタープレックスを完成させショートカットを使って知的生命探査を行っている。船長のキースは中年でミドルエイジクライシス真っ最中。生物学者でスタープレックスに同乗している妻のリサに不満は無いが、若い女性乗組員リアンのことが少々気にかかる。

 そんな中年のモヤモヤを絡めながら、一方で非常に大きなスケールで話が展開する。ストーリー展開に驚きはないが、安心して読み進められた佳作。

 

初イーガンがこれ

 「ビット・プレイヤー」はイーガンの短編集。僕は最近全巻をキンドルで揃えた「バーナード嬢曰く。

に登場する女子高生がイーガンの話をしょっちゅうしているので、読みたいと思っていたところにこの本をブックオフで発見!「バーナード嬢~」ではその難解さに言及されていたが、この短編集は読みやすく、最新のSF作品として読むことができた。

 一話目『七色覚』では視覚最先端医療の手術を行った子供たちが違法なダウンロードソフトによって世界の在り方がまるで違う様子で見えるようになる。その感覚の違いを上手にストーリーに落とし込んだ佳作。我々は可視光線の中で生活しているが、それ以外の生物、例えば昆虫などにとっての世界の捉え方は変わってくるはず。昔、埴谷雄高のエッセイに、数種の世界の見え方の違う生物同士が同一の物体について物語るとき、それはまるで違った世界が浮きあがってくるだろうという趣旨のことが書かれていたが、まさにそれを思い出した。最終話の「孤児惑星」なんかは最新宇宙SFの醍醐味を味わえて、やっぱSF面白いよなあと。

 

 kindle unlimitedは実際はアンリミテッドではなくある程度のリミットがあるのだが、それでも月額千円ということを考えれば本のサブスクリプションとしてはかなり有用だ。先の「バーナード嬢曰く。」は全巻購入しても1400円くらいだったので思わず買ってしまった。読書欲を非常にそそられるよい作品です。なんかアニメ化までされててびっくりなんだけど、あの独特の画風を再現はできていないようで・・・。

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 そうそう、第6巻において、カフカの「父の気がかり」という3ページくらいしかない短編に出てくるオドラデクという星形の謎の生き物に関しての話があり、あーそういやそんな話があったな、と思って読み返したところ寓意に満ちすぎていてよくわからない話だった。

 ちなみにその話が載っている「カフカ短編集」には個人的にカフカの短編としては最高傑作と思っている「流刑地にて」が収録されている。

 とある地位のある旅行者が植民地(どこかははっきりとしないが、モロッコとかそういうあたりか)で一人の将校を紹介される。その将校は先代の司令官が開発したという特殊な処刑機械を維持することに憑りつかれており、その旅行者が口添えしてくれることを期待して処刑場面に立ち会ってもらうのだが・・・。まあ青空文庫とかでも読めるのでぜひ一読をお勧めします。なにその終わり方!というまさに不条理文学と呼ぶにふさわしい内容です。高校一年生の娘に読ませると「もうこれで読書感想文書くわ」と言っていた。

 

 そうしてアンリミテッドで柳下毅一郎氏の「皆殺し映画通信」全巻が読めることを発見し、順次読み進めているのだけれどこれがまた頗る面白いのだ。

キンドルアンリミテッドなら全巻無料

 柳下氏は特殊翻訳家を名乗っているが、他にも映画評論家や殺人犯研究者としての側面をもった方でもあり、「映画秘宝」初期のころから氏の本を読んでいる僕です。そして僕のブログでしょっちゅう紹介する映画批評チャンネル「ブラックホール」では毎週その該博な知識と知見で、てらさわホーク氏、高橋ヨシキ氏と共に映画を語っておられる。

スピルバーグのシリーズはすごすぎ

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 昔僕は氏の「世界殺人鬼百選」を本屋に予約して親に気持ち悪がられたりしたっけ。

でも今はプレミアがついてるぜ!ちなみに「ガース柳下」名義

 

 この「皆殺し映画通信」、毎年公開される膨大な邦画の中には何故、誰のために作られたのかという作品が目白押しである。氏はそういう本格映画ファンからは見向きもされないような映画を自腹で鑑賞し、時には地方遠征までするのである。そして豊かな見識に裏打ちされたレポートを届けてくれる。きっと実際に観たらつまらな過ぎて、意味不明過ぎて途中で観るのを止めてしまうような作品が多いのだが氏の筆致によりこの上なく面白いものに思えてくるから不思議だ。そしてそこに浮き上がる邦画の闇に「映画の死」を憂えるのである。

 もちろんそういった作品だけではなく、大ヒット作品や、幸福の科学関連の映画なども紹介されており、世には色々な映画があるものだな、と感心することしきり。邦画にある種の気持ち悪さを感じている人にとって、なるほどと思わされる論考が詰まっております。たとえばこんな映画があったことなど知らなんだ。

もう予告編からしてヤバイ


 とにかくこの本はどの巻から、どのページから読んでも面白いし、読み始めたらなかなかやめられない。文章も非常に読みやすく面白いので何か軽いものが読みたいと思ったときに最適の本です。

 

 まあ実際にはどの映画も見ないですけど

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