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『巨人たちの星』J.P.ホーガン /大宇宙に広げられた大風呂敷 3

 とにかくそのスケールと緻密なストーリー構成で予想もつかない方向へと走る『巨人たちの星』。

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巨人たちの星 (創元SF文庫 (663-3))

巨人たちの星 (創元SF文庫 (663-3))

 

  SFと探偵小説と政治小説の趣もあるこの作品、読み始めると止まりません。登場人物の把握に多少苦労するももの、2度読みすると更にその深さに驚かされる。

 

 謎の「地球監視勢力」によって月面基地の通信機器が破壊され、テューリアンと地球人との交流は断たれたに見えたが、実はすでにアメリカは彼らと独自のチャンネルと開くことに成功し、ハントやダンチェッカーはテューリアンの最高指導者カラザーと共に、地球を出発し危機にさらされていたシャピアロン号を救う。

 

 地球側はカラザーから地球とのすべての交信記録を提示される。それを調べると奇妙な事実が発覚した。そもそもの地球からの最初のテューリアンへのメッセージが実に友好的なものであり、地球監視組織から得ていた「地球人は野蛮で好戦的な性質を持っている」というイメージとはかけ離れていた。

 監視組織の報告に疑念を抱いたテューリアンは国連へ直接会談を申し込むが国連はそれをすぐに受け入れようとしない。しかも後の通信に敵対的な内容が含まれたメッセージが混ざり、テューリアン側は混乱する。いったい地球の真意はどこにあるのか?

 しかも実はソヴィエトからも送信があったことが発覚する。ソヴィエトもまたテューリアンとの接触を望んでいたが、その後月基地からのメッセージと同様に敵対的な内容を送ってくるようになる。この偶然は何か?

 

 ダンチェッカーはクリスと意見を交わすうちに地球監視勢力はテューリアンではないのではないかという考えを持つ。そして考えられる結論はただ一つ、地球監視をしている勢力は2500万年前にガニメアンたちが移住した時に同時に連れて行った人類の祖先が進化した地球人と同じ人間だということだった。 

 

 ダンチェッカーらの問いに対して、カラザーからついに真実が告げられる。地球人たちが察したとおり、地球監視勢力はもともとは地球から発生した人類で今ではジェヴェレン人と呼ばれ、テューリアンの庇護のもと高度な文明を築き、現在では地球監視の任に当たっていたのだ。

 

 ダンチェッカーは自分の推論が当たったと思ったがそれはカラザーによって否定される。ガニメアン(=テューリアン)は母星である太陽系第五惑星ミネルヴァを脱出したあとも監視し続けていた。移植された地球の生物たちがミネルヴァの固有種を駆逐し進化してゆく様子が映像で再現されたものをハントたちは見せられる。

 驚くべきことに進化の過程で類人猿になった人類の祖先は一度水中生活に戻ったということが明かされる。そして再び陸に上がった彼らは人類へと進化し始める。これが後のセリアン(=ルナリアン)と呼ばれる人種である。彼らの発展はゆるやかなものであったが、ミネルヴァが自滅をたどる200年前に劇的な変化が現れる。

 それまで平和に発展していたセリアン社会に突如登場したランビアンという人種が急激に勢力を伸ばし、全体主義的な統治を始めたのである。ランビアンは軍備を強化し、ミネルヴァを統治しようとする。それに対抗するセリアン勢力との戦争により最終的にミネルヴァは破壊されてしまうのである。

 

 この時点まで不干渉を貫いていたテューリアンはついに救いの手を差し伸べ、月に残ったセリアンとランビアンを保護したのである。その際に人工ブラックホールを出現させたためミネルヴァの破片は冥王星となったのだ。

 

 一作目の『星を継ぐもの』での最大の謎解きは月は地球の衛星ではなく、もともとミネルヴァのもので、それが後に地球の衛星になったという事実だった。この展開には僕も驚いたものだ。月に残ったルナリアンたちが自力で努力し地球に辿り着き、人類の祖先になったというわけだ。

 しかし!この『巨人たちの星』ではなんとそれがひっくり返される!ええ!そうなの!つまり、ルナリアンたちはテューリアンの手によって保護されルナリアンは地球へ赴き、好戦的なランビアンはテューリアンと共にジャイスター星系へと旅立ったのだ。何その種明かし。自身のストーリーの否定!すげえ!読者を見事に騙したな!

 ところホーガンはこの部分を伏線として驚きの結末を最後に用意しているのである。

 まあそれはあとにして、ここで嬉しいのは『星を継ぐもの』の冒頭に出てくるチャーリーの友人である巨人、コリエルが登場することだ。ハントたちはその資料からコリエルの存在を知っていたのだが、なんと残された当時の映像でコリエルを確認できたのだ。歓喜するハントたち。そして救われたコリエルはチャーリーの死を確認し、残された仲間たちと地球へ向かった。この事実は『星を継ぐもの』のラストでコリエルの私物が発掘される場面と呼応して感動的だ。SFって面白いなあ!

 

 それにしてもまだこの話の半分しか紹介していないのですよ!もうね、PV低下覚悟で(そんな大した数ではないけれど)最後まで行こうと思ってます。このような木っ端みたいな記事がきっかけでSFに興味ない方が読んでみようかな、と思ってくれたらそれでいい。だってこのブログ、『音楽と本』だからね!

 

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