デイビッド・クローネンバーグが久しぶりにぐちゃどろ方面へ帰ってきた!
巨匠の風格漂うクローネンバーグ監督の最新作「クライムズ・オブ・ザ・フューチャー」は内臓映画(というジャンルがあるとすれば)の頂点とも言える作品だった。
予告編で相変わらずの独特のガジェットが登場し、クローネンバーグ作品を知らない人からすればなんじゃこりゃというものだが、30年来のファンとしてはあのころのクローネンバーグが帰ってきた!という感じですよ。
もうサムネイルからして
ここ最近は端正な作品が多く「ヒストリー・オブ・バイオレンス」以来彼の作品を鑑賞していなかったんだけど、今回はこちらも気合十分で鑑賞に臨みました。
相変わらずの低予算感が感じられるが俳優は地味に豪華。クローネンバーグ作品の常連であるヴィゴ・モーテンセンが主演でそのパートナーにはボンドガール のレア・セドゥ。彼女、「フレンチ・ディスパッチ」にもすごい役で出てたな。
注意!ネタばれあり!
冒頭、海辺で遊ぶ10歳前後の少年が登場。背後には横倒しに座礁した貨物船。ディストピアですかね・・・。海辺の家の窓辺から母親に「変なものを食べちゃだめよ」と注意される。
その夜、少年は歯磨きを終えた後、洗面所で座り込みプラスチックのゴミ箱をバリバリと食ってるじゃないか!その様子を絶望的なまなざしで見つめる母親。そして彼女は息子が眠りについた後、枕を少年の上にかぶせ殺害する・・・。
まったくもって意味不明の冒頭部分、相変わらずすごいな、クローネンバーグ。
いつとは知れぬ近未来、人間は内なる進化を始めていた。感染症は克服され、痛みの感覚が無くなり、それゆえにナイフで傷を付けてもへいちゃら。であるからして肉体改造 が容易になっているのだが、中でもそれをパフォーマンスとして行っている人間が出てくる。身体を傷つけることがアートと同一になっているのだ。
ただ、クローネンバーグの未来なのでブレードランナーのような街並みや、最新のテクノロジーなどはほぼ出てこない。そもそも、パソコンやスマホの類は一切登場せず資料 の保存は全てが紙!建物も廃墟のようなボロボロなものばかり。そして時折響く「ブブ」というハエの羽音。唯一未来感があったのは指輪型のビデオカメラなんだけど、同時にこの世界の人々は撮影をするときには八ミリカメラのようなこれまた古臭い機械を使っても撮影するのだ。ネット環境がないも同然の世界観。
時代に逆行も甚だしいね。これ、「イグジステンツ」とかでもそうだったんだけど、
彼の作品ではピカピカの実験室や機械は登場しない。かといってアジア風のサイバーパンク描写も出てこない。近未来と言えばブレードランナー風という描写に対するアンチテーゼか。まあ予算が無いというのもあるのでしょうが、街の全景 や建物の様子はほぼ描写されず、出てきたとしてもボロボロのビルや部屋ばかり。むしろ大時代的な建物や人々の様子 であり、この辺りはロケ地がアテネということにも拠るのだろう。
主人公ソール・テンサーは「加速進化症候群」なる症状があり、体の中に常に新しい臓器が出現する。それは何の機能もない臓器なのだが、それをパートナーであるカプリースが体内にある状態でその臓器にタトゥーを施し、パフォーマンスとして人々の前でそれを取り出すのだ。それはアートなのである。
そうしてその取り出した臓器は登録物として扱われ、NVU(ニューヴァイスユニット)なる組織の下部組織、「臓器登録所」へと預けるのだ。その臓器登録所の佇まいもなんだか貧相で、おんぼろビルの汚い一室である。そこには所長のウィペットと若い女性の助手ティムリンだけが働いている。各所で言われているのだが、このティムリン役のクリステン・スチュワートが非常にいいですな。最初は地味な印象なのだが、後半その存在感を増し、最終的には結末に大きな影響を与える人物になる。
そうそう、キャストに久しぶりにスコット・スピードマンの名前を発見し、どこで出てくるかなと思いながら見ていたんだけど、最初所長役のウィペットと勘違いし、うわあスコット無茶苦茶年老いた!腹も出てしまった!「アンダーワールド」の頃の精悍な役からは考えられないと思っていたら、とある組織のリーダーのラング役がそうだった。
ラングは冒頭のプラスチック食い少年の父親であり、有毒物質のチョコレートバーを食べられるように自らの体を改造したのだ。そしてその息子はなんと生まれつきそのプラスチックを食物としているのだった。彼はその死体をソールに解剖してもらい、新人類の存在を公にすることを望んでいるのだ。
映画の最後にその少年の解剖ショーが来るのだが、もちろん作り物とはいえこういうの苦手な人たくさんいるだろうね。カンヌ映画祭で途中退出者続出!という煽りはこのあたりですかね。
映画の中ではしょっちゅう内臓が出てきたり腹を切り裂いたりしているのだけれど、不思議と生々しさはないのです。なんというか80~90年代ホラーの作り物感が感じられてある種のユーモラスな雰囲気がある。最近のリアルスプラッタホラーとは違う感じなんだけど、そう思うのは僕だけか。
こうしていろいろ書いたところでこの特殊な作品の魅力は伝わらないと思います。ぜひ劇場で見ていただきたいですね。先週公開されたばかりだけど、多分すぐ終わっちゃう気がするなあ。そんでもってパンフレットも売り切れてしまうのではないか。というのも僕が観たシネコンでは僕がラストパンフ!公開一週間も経たないうちに売り切れかよ。いやギリ買えてよかった。1200円と高めだが、かなり凝った装丁で、記事も充実しておりました。
パンフにカバーがついている!寄稿者も高橋ヨシキ氏など「わかっている」人達が終結
そんでもってこちらのブラックホールチャンネルでも特集。なんとインタビュー企画でクローネンバーグ本人が登場!すげえ!同時にクローネンバーグのフィルモグラフィーも紹介されています。
以前書いたヴィデオドロームの記事はこちら
さあ!最近映画代も高いけど、ぜひ映画館へどうぞ。
クローネンバーグって80歳