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我遂読了中華的大河空想科学小説『三体』

 刊行されて以来、各方面で絶賛されていた中国発のSF大作『三体』をとうとう読み終えたぜ!去年の10月くらいから、図書館で借りて毎日コツコツと読み続け、年を跨いでついに全五巻読了!

キンドル版もあるけどやっぱハードカバーでしょ!買ってないけど

 世界で2700万部、日本で60万部ってすごいよね。

 巻数としては一巻・『黒暗森林(上下)』・『死神永生(上下)』の全五巻という壮大なスケール。そこに描かれる出来事も数百年に渡るのです。であるからして、それぞれの巻数で物語を動かす人物もそれぞれ違うのだ。ただ、SF小説なので「冬眠」(いわゆるコールドスリープ的なもの)を使い人物は時代をまたぎ、その時代ごとに様々なドラマや出来事、文化が展開される。その想像力はすさまじい。

 

 読む前のイメージとしては若き女性研究者が大活躍するファーストコンタクトものだったのだけれど、とんでもない、ゴリゴリのシリアスハードSFだった!とはいえ、エンタメ性は十分にあり、特に『黒暗森林』で描かれる宇宙の場面はものすごい映像となるに違いない。

 

  注意!ここからは『三体』のネタバレの嵐です!

 

 まずは一巻を僕なりにご紹介。はじまりは文化大革命のさなか。暴力的に自己批判を要求され、多くの文化人が弾圧される時代。目の前で大学教授である父が糾弾の末殺され、自身もまた不遇な環境にあった女学生葉文潔(イエ・ウェンジェ)はその経歴を買われとある山奥にある、秘密の巨大な通信施設で働いていた。彼女はその壮絶な経験から人類に対して絶望しており、地球人とその文化は滅びるべきだという信念を密かに持ち続けていた。

 施設では異星文明に対しメッセージを送るプロジェクトが極秘裏に進められていたが、特に進展もないこの計画はいつしか忘れさられようとしていた。しかしある日、ついに異星からのメッセージが届く。まず最初にそれを発見したのは葉だった。しかしその内容は意外にも

「このメッセージに応答するな。すれば必ずそちらの位置が特定され、ただちにお前の星は滅ぼされるろう。応答するな!」

というものだった。しかし文潔は即座に「すぐに来て!そして地球を滅ぼして!」という内容を返信したのだった。実はこの送られてきたメッセージの内容自体が「三体」世界のある真実を語っているのだが、これはまた「黒暗森林」編でそれが響き合うことになる。凄い。

 

 そして数十年後の現代、話を動かす人物は汪森(ワン・ミャオ)という科学者になる。彼の研究は極限まで細く強いナノ金属の研究で、もしそれが実現すれば、将来宇宙エレベーターの実現に深く寄与することになると考えられている。

 ある日彼は当局に呼ばれ、「科学フロンティア」と呼ばれる団体に潜入し、その実態を探ってほしいと依頼される。ここで登場する史強(シー・チアン)が非常に魅力的である。史はベテランの刑事で、数多くの修羅場を潜り抜けた経験豊かな人物であるが、一方で型破りな行動も多い。その粗野な史にボディガードをされた汪は、科学フロンティアのルートで奇妙なVRゲームに参加することになる。その名は「三体」。

 ここでゲーム世界の描写になるのだけれど、ログインすると大空にでっかく「三体」の文字が浮かんでいる。

    この場面、中国で映像化されたドラマの予告編の中で登場しており、結構な迫力である

 

 わあ、この絵かっこいいなあ!

 さてこのゲームではプレイヤーはとある惑星に置かれることになる。そしてその惑星を三つの太陽が巡っており(これが三体の由来となる)、時にその重力バランスから三体惑星を激しい環境にさらす。プレイヤーは三体惑星の比較的安定した「恒紀」と呼ばれる環境的に穏やかな時期に文明を発展させ、なおかついつ訪れるか分からない「乱紀」(凄まじい寒さや嵐が襲い掛かる)に備え、民を脱水と呼ばれる避難形態にする必要がある。脱水って面白いなあと思ったよね。よくわからないけれど、その状態になった民はピラミッドに格納され、次の恒紀まで眠り続けるのだ。

 「恒紀」と「乱紀」を正確にシュミレートし、その間に三体世界の文明を発展させるのであるが、三つの太陽の軌道の予測は困難で、あらゆるプレイヤーが失敗し、文明を滅ぼしてしまうのであった。

 ここに登場するプレイヤーは秦の始皇帝とか、確かアリストテレスだとかニュートンなどの歴史上の人物をアバターとしてまとい、それぞれが我こそはという意気込みで乱紀を予測し文明を延命しようとするのだが、皆ことごとく失敗してしまう。汪は世界観に圧倒されながらも、このゲーム内でコペルニクスという名を名乗り没頭していく。そうして彼の考えた方法がついに成果を上げた!・・・と思いきや、結局は三体世界は滅亡し、彼のシュミレートは失敗に終わってしまう。

 実はこのゲームでは三体世界の三つの太陽の動きを完全に予測・シュミレートするのは不可能であることが明かされる。ではどうすれば三体人は生き残れるのか?それには自身の故郷以外の移住可能な惑星を発見する道しかなかったのだ!そしてこのゲームの目的と全貌が徐々に明らかになっていくのだ。

 

 一方現実世界では物理学者の自殺が相次いでおり、その中には三体世界へメッセージを送った張本人の文潔の娘、冬景(ヤン・ドン)もいた。汪は美しかった冬が自殺したことにショックを受けたが、ある朝自身の視界に正体不明のカウントダウンが現れたことに気が付く。恐怖に憑りつかれたは科学フロンティアのメンバーにそれを相談すると今度は宇宙が明滅する瞬間を目撃すると告げられる。果たして予告通り宇宙は明滅し、そこに人類にはとても太刀打ちできない力が働いていることを悟る。

 

 この科学フロンティアは実は「地球三体協会=ETO」と呼ばれる組織の一部であった。ETOは、葉と同じように人類は滅びるべきだという考えを持った人物たちが、来る三体星人を迎えるために三体世界とコンタクトをとり、その指示を仰いでいた集団であった。はそのETOの集会に参加することに成功する。そして、驚くべきことにそのETOの中心人物はであった!そのさなか、のチームが会場を襲撃し、ETOを一網打尽にすることに成功する。

 ここで逮捕された葉は、恐るべき事実を報告する。すなわちすでに三体惑星より艦隊が出発しており、450年後には地球に到達するというのだ。そしてETOはその受け入れを容易にするため、様々な工作を行っていたのだ。

 

 しかし、ETOにはもう一人の牽引的人物、マイク・エヴァンズがいた。彼は森林保護運動に身を投じた富豪の息子であったが、自然破壊に対する人間の姿勢に幻滅していた。たまたま彼が中国で葉に出会い、三体世界の秘密を打ち明けられる。彼は直ちに行動に移り、ジャッジメント・デイという名のパラボラアンテナを備えた巨大タンカーで世界中を航行していた。これは当局にもし三体世界とのつながりが露見した場合に、彼らとのやり取りのデータをすぐに消去できるための措置であった。

 マイク・エヴァンズのコンピュータを手に入れる必要を感じた各国の連合は、しかし無傷でデータを手に入れる方法を見つけられないでいた。そんな中、史強がとんでもないアイディアを提案する。それは、汪森の研究するナノ金属繊維を船の進路に50センチ間隔単位で張り、スライスする、というものであった。こうすれば乗組員全員を絶命させることができる一方で、パソコンのハードディスクは確保できるという訳だ。古箏作戦と名付けられたこの作戦がこの小説のスペクタクルである。

 パナマ運河を通り過ぎるときに全く何の引っ掛かりもなく、いとも簡単に船がスライスされていく様子はすさまじいが、あれ、なんかこれどっかで見たことあるなあと思ったら、昔のホラー映画「ゴースト・シップ」でほぼ同じ場面があった!映画冒頭でワイヤーが客を上半身から真っ二つにするというかなり凄惨な描写で、今YOUTUBEで確認したけどやっぱすごかった。気持ち悪!

    このシーン、中国製作のドラマ版の予告編に一瞬登場します。イメージ通り!

 小説読了後に、この予告のこのシーンをみて思わず「おお!すげえ!」と言ってしまいました。

 こうして人類はエヴァンズのコンピュータから三体世界の秘密を知ることとなる。

 三体人は450年後、地球の文明が進化し彼らの技術に対抗できないよう「智子(ソフォン)」と呼ばれるナノ・スーパーコンピュータを地球に送り込むことに成功していた。智子とは陽子を11次元から2次元に展開し、そこに手を加えてどんなに離れた場所でもそれを操作し、相手に干渉できるようにされた智恵のある粒子だそうな。

 この智子は難しいことはよくわからないが「量子もつれ」(光速をこえる移動が可能な理論)を利用し地球に投入され、地球のあらゆる物理学基礎理論研究を妨害し、技術の発展を阻止していたのだった。物理法則の異常を知った科学者のあるものは自殺し、またETOの手によって殺されていたのだった。

 汪の目に見えていたカウントダウンもこの智子の影響だったのである。

 面白かったのはこの智子を作る過程が描写されていたことだ。三体世界の科学者たちは陽子を二次元展開するためにあらゆる手を尽くすが、最初は失敗の連続であった。特にその失敗の中でも不気味なのは、巨大な目が空に現れたという描写だ。なんで目?

 とにかく試行錯誤の末、智子を完成させた三体人は数個の智子を地球に送ることに成功し、それを通じてETOに指示を出していたのだ。またその智子は地球のあらゆる場所に存在することができ、地球人が立てる計画を全て見透かすことができるという。

 ジャッジメントデイが拿捕されたことにより、地球と三体世界との通信は途絶えた。最後のメッセージは

「お前たちは 虫けらだ」

という内容のものだった。

 ちなみに智子は後々人間の女性の姿としても登場し、最後の最後までストーリーに絡んでくる。ある意味、この小説の裏主人公はこの智子でもあるな。

 

 さて、三体星人が地球に到着するまでの450年、人類はそれに備えなければならない。しかし、智子に技術発展が阻まれた今、絶望的な状況である。

 汪は三体人が言うように、我々は虫けら同然だと史強に漏らす。しかし史は汪をとある農場へ連れ出し、そこに飛来した大量のイナゴを見せる。我々は虫けらだが、このイナゴのように生き抜くんだ、と汪に語り、一巻は幕を閉じる。

 

 いや、もっと簡潔に梗概を書きたかったけど、やはりこのボリュームを簡単には紹介できないっすね。あとの四冊分、どうしようかな。気が向いたら書きますね。

 発表されたのは10年以上前の作品だけれど、明らかにSFの歴史を変える一冊でありました。しかし、これはまだ始まりであり、この後の「黒暗森林」「死神永生」がとんでもないスケールで展開するのですよ。

 

 中国ではドラマが放映開始されているようで、予告編を見る限り、かなり忠実に三体の世界を再現しております。登場人物もイメージ通り!

     www.youtube.com

アマゾンかディズニープラスで観られないかなあ!

 そしてなんとこのドラマとは別にネットフリックスでも製作するんだってさ。

 以下の動画の31:00あたりから三体の紹介がされてます。


中国版に比べると映像は少ないけれど、智子のキャラクター姿が少し映る!それにしてもネットフリックス限定か・・・これのために入るのもな。とにかく映像サブスク多すぎ!見たいがキリないよ。アマゾンとディズニーだった持て余してるのにさ。

 それにしても同一作品を別の国で同時期に製作とかあまりないよね。それほどこの作品は訴求力があるということだ。

 SFには興味があるが、どんな作品から読んだらよいかわからないという方、まずはこの「三体」をどうぞ。単行本の単価は高いけれど、ベストセラーなので大抵の図書館には収められているはずです。ぜひ一読を。

 

 もう続巻の内容半分忘れかけてる

kakuyomu.jp