ほぼ需要がないと思われるヴィデオドロームの話を、記録的猛暑の日々(8月4日あたりにこれ書いてます)に書き連ねる僕はいったい誰なのか?今頃脈絡なくヴィデオドロームの夢を見すぎでしょ。何のためにこんなに字数を費やして書くのか?答えはない!
何度でも観られる
ヴィデオドロームの殺し屋となったマックスは自社の役員を皆殺しにする。裏口から逃げるマックスはガラス職人の姿を観て一瞬足を止めるが、何事もなかったようにその場を立ち去る。
さて、この場面のマックスの着ていた茶色のジャンパーと似たような服を当時父親が所有していた。僕はそれを着て弟にこの場面を再現して見せて「これなーんだ?」と聴くと弟は即座に「ヴィデオドローム!」と答えてくれた。その後僕ら兄弟のあいだでその服は「ビデオドロームジャンパー」と名付けられた。
次にビアンカを殺せという声に導かれて「ブラウン管伝道所」へと足を運ぶマックス。夜、彼女のもとへ現れたマックスはビアンカと短い会話を交わす。
「あなたは私を殺しに来たのね」
「いや、私はチャンネル83のマックスだ。人は殺さない」
ここで暗闇でその表情が見えなかったマックスは一歩踏み出し、その氷の表情を彼女に見せる。見事な演出だ。
自身の一部となって腐乱しはじめた拳銃の拳を構え、逃げるビアンカを追うマックスは、あるパーテーションで再生されたビデオに見入ってしまう。
そのビデオではニッキーが絞殺されていたのだ。呆然とするマックス。そしてビアンカの声がこだまする。
「ヴィデオドロームは死よ」
同時にブラウン管からマックスの拳銃の手が伸び、彼を撃つ。膝を折るマックス。画面では彼の腹が彫刻のようにはめ込まれ、そこから血が流れている。観念的すぎる。
そして再びビアンカの声。僕はこのシーンを何度も見たので彼女のセリフを即座に脳内再生できる。
「ITS BETTER.SO MUCH BETTER」
そしてさらに彼女は続けてマックスに語りかける。
「ビデオを取り出すのは苦痛のはず。でもあなたはビデオに作られた新人間よ」
その言葉を受けてマックスは歓喜の表情を浮かべる。
「俺はビデオに作られた新人間か。」
「そう。そして今こそ彼らに与えられた武器で彼らを破壊するのよ。ヴィデオドロームに死を。新人間よ永遠なれ」
マックスは涙を流し、拳を固めて復唱する。彼についに福音が訪れたのだ。
「DEATH TO THE VIDEODROME.LONG LIVE THE NEW FLESH.」
荘厳なショアのパイプオルガンのスコアがよりこの場面をエモーショナルなものにする。真っ当な人間がこの場面を見たら茶番にしか見えないかもしれないけれど、これはメタフィジックなシーンなのだ。僕には神々しささえ感じられるシーンでもある。ロングリヴ・ザ・ニューフレッシュ。
くどいくらい言う
新人間となったマックスは復讐のため、まずはハーランを求めスペクタクル・オプティカルの店舗へと向かう。店をはさんだ道路ではホームレスが「サル踊りするからよ、金くれよ」とマックにねだる。そしてそこには街頭テレビ。またテレビだ。しかも映し出されているのは、殺人犯として手配されているマックスの顔だ。マックスはハーランがやってくるのを確かめると、彼のもとへと赴く。店の中でチラシを見るふりをしたりするマックス、奥へと入ろうとすると途端に黒人の店員に阻まれる。というか、この黒人はマックスが誰かを知らないらしい。なんで?ヴィデオドロームの一派じゃないんだ?その店員がおばちゃんの客に気を取られている好きにすかさず奥へと入るマックス。ハーランを見つけて満足げな表情のマックスが頼もしい。突如姿を見せたマックスに驚くハーランだったが、自分たちの手先だと思っている彼は再びドロドロのヴィデオを彼の腹の中へと突っ込む。
ここからが痛快極まりない。ハーランの手はマックスの腹の中に収まったままで、抜けないのだ。そして例の風が吹き付ける。次第に驚愕の表情を見せるハーラン。歓喜の表情を隠せないマックス。ようやくのことで腹から手を抜いたハーランの手はなんと溶解寸前の手榴弾だった。信じられないという顔をするハーラン。
「ピッツバーグで会おう」
マックスが口を開くと同時にハーランは「ぎゃああああ」と爆死。すごい。
そしてマックスはいよいよラスボス、バリーの元へと赴く。バリーは展示会でショーを開催していたのだ。多くの客が集まる中、壇上で演説を始めるバリー。そして頃合を見計らってマックスは腐乱した拳の拳銃を腹から取り出し、ステージへと上がる。逃げ惑う観客。衆人環視の中、マックスはバリーを追い詰め、発砲。体に三発。そしてトドメに脳天へ。
ここからがとんでもなくすごい。
倒れたバリーの体が真ん中から二つに裂け、体の中から無数の巨大なガン細胞(キャンサーという名称でメイキング本には記されている)が飛び出し、彼の体を破壊するのだ!
このシーンのゴア度は当時僕の度肝を大いに抜いた。実はこのヴィデオドロームという映画を知るきっかけになったのは中子真治氏の書いたこの本だった。
今でも後生大事にどこかにとってあるはず
この本は当時のホラー・SF好き少年たちに多大な影響を与えたに違いない。情報が少ない中、ハッとするようなビジュアルとSFXの裏側がふんだんに紹介されていたのだ。そして、特殊メイクアップの写真がかなり多く載っていたこの巻に、上記のヴィデオドロームのクライマックスシーンの写真が載っていたのだ。本当に初めて見たときは「うわ」と声が出るほど驚いたものだ。それほどこのバリーの臨終シーンは凄まじかった。
それでも観たいという方はどうぞ。閲覧注意
僕はこの本を読んで一時期特殊メイクアップアーティストになりたいとう通常の高校生ならば持つ確率ほぼゼロに近い夢を持ったりもした。
田舎から電車に乗ってわざわざ池袋の東急ハンズまで行き、特殊メイクアップの道具を買い揃えた。それは傷跡を作る肌色をしたゴムみたいな材質で、そこに血糊を垂らすといかにも傷があるように見えるというシロモノだった。僕はそれを高校に持っていき、手の甲に折れた鉛筆を刺したように見えるメイクアップを施し、隣の友人に
「痛え!鉛筆刺しちゃった!」
と大根演技をかました。それにもかかわらず、友人は一瞬めちゃくちゃ驚いてのけぞったほどだ。僕はその後、友人と未完成のしょうもないホラービデオを作ったり、日大芸術学部を受けて一浪の結果、監督コースにも合格したりもしたが結局別の大学に進学し、現在に至る。日大に進んでいたら確実に違う人生を歩んでいたことは間違いないが、そんなことをいってもどうしようもないね。
バリーはステージの中央で体から大量に血を吹き出し、ぐちゃぐちゃになりながらおぞましい断末魔の声を上げる。マックスは彼の持っていたマイクを握り、
「DEATH TO THE VIDEODROME!LONG LIVE THE NEW FLESH!」
と誰も聞いていないながらもアジり、マイクをその場に投げ捨てる。マイクはバリーの苦悶の声を拾い
「うげぇうげぃーぐおおおぉぉぉ、ぐぇッ、ぐえっろろろろろ」
という気味の悪い声をいつまでも会場に鳴り響かせる。クローネンバーグの行き届きすぎた演出だ。
復讐を遂げたマックスは港へと逃げ、とある廃船へと入り込む。
ボロボロに錆びた船室で座り込むマックス。タバコの空き箱を見つけ、それがカラだと知ると残念そうに放り投げる。当然、この細かい演出を僕は弟と再現し、二人で笑ったものだ。変な兄弟でしょう。
さて、目を閉じ、再び開いたマックスの前にはテレビが一台置いてあった。そしてそこにニッキーが映り、
「次の段階へ進むのよ」
と語りかける。
「どうすればいい」
「簡単よ、こうするの」
画面には立ち上がったマックスが、自らのこめかみに銃口を当てている様子が映し出される。
「LONG LIVE THE NEW FLESH.」
(新人間よ永遠なれ。)
とつぶやいた直後に彼は発砲。途端に画面がドバーンと大爆発し、ブラウン管から大量の内臓が吐き出される。何だこりゃ!気持ち悪い!確か豚の内臓だか何かを使ったらしいけどね。
すべてを理解したマックスは立ち上がり、最前の彼が画面の中でそうしたように銃口をこめかみに当てる。
「LONG LIVE THE NEW FLESH.」
バン!という銃砲と共にジ・エンド。
なんてすごい映画なんだ!
ちなみに僕はこの映画を始めて見たのは数人の友人たちとだったが、この場面に至ってみんな
「よけろ、よけろ!」
というギャグをとばしていた。
ちょうどタバコを捨てるシーンから
後年、僕はこの映画の情報をネットで色々とチェックしていたら、この後に削除されたシーンがあることを知った。
どうやらヴィデオドロームの影響を受け死んだ人間たちが新たな世界で新人間として存在した様子をメタフィジックに表しているようだけれど、これは蛇足以外の何者でもないね。絵だし。
ようやくヴィデオドローム地獄終了