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ロード・オブ・カオスでどんより

 アマゾンプライムで「ロード・オブ・カオス」が観られるようになっていた。そして、観た。主演はマーコレー"ホームアローン”カルキンの実弟ロリー・カルキン。

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 R18指定で、かなり内容的には過激。なかなか見るのがつらい場面もあって何度かに分けて最後まで見ました。
 1990年代前後にノルウェーで活動していた「メイヘム」というブラックメタルバンドの実話に基づく破滅系暴力ダメ青春映画。ブラックメタルとは悪魔崇拝に基づいたビジュアルや歌詞、そして大仰で凶悪なリフとブラストビートが要になったある意味メタルの究極的なスタイルの一つ。

       メイヘムの曲。何となく初期ソドムっぽい感じ

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ノルウェーに住む19歳のユーロ二モス(本名オイスタイン)はブラックメタルバンド、メイヘムのギタリスト。自宅の地下室で友人たちと毎日のように練習をしていたが、最初の時点ではあんまり上手じゃなくて、たまに様子を見に来る妹に「へたくそ」とか言われる始末。

 でもユーロニモスはひたすら練習した結果かなりのレベルにまで到達。そしてメンバー募集に応じたデッド(彼はデモテープにネズミの死体の磔を同封してきた)が加入しそこからカリスマ的人気を博していく。

 彼らは仲間とメタルパーティを屋外で催したりしてもいます。そこに爆音でかかるのはアクセプトの「ファストアズアシャーク」とか、ディオの「スタンドアップアンドシャウト」だ!ああ、懐かしい。

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 僕は彼らと同年代で、リアルタイムでこれらのメタルを聴いていたものだから、すぐに反応してしまう。僕はようやく大学生になったばかりで何も考えず能天気に日々を過ごしていたわけだけれど。


 さて、新ヴォーカリストのデッドは少年時代に受けたいじめから死に憑りつかれており、ライブの最中には腕をナイフで切って血をまき散らしたり、豚の頭部を客席に放り投げたりしていた。しかも、エキサイトした客が、その豚をかじる。病気になるよ!
 そのライブを見ていたクリスチャンという青年がバーガーショップで打ち上げをしているユーロニモスに「あんたら最高だ!」と話しかけるが、ユーロニモスにGジャンのワッペンの「SCORPIONS」が軟弱だと冷たく指摘され、すごすごと引き返す。

           そりゃこれに比べれば

     

 メタルの世界ってジャンルが細分化していて、彼らはより過激なスタイルを追求しているので、スコーピオンズのようにメジャーで一般的なメタルとは相容れないわけですよ。そうしてそういうメタルを聴くやつらに対して「ポーザー(かっこつけ)」と決めつけるのですな。この辺、いかにもメタルファンの生態を上手に描写しているわけだけれど、僕も彼らくらいの頃はボンジョビとかの一連のLAメタルに対してあまり良い思いは持っていなかった。でも今となっては成長して嫌いだった食べ物がおいしく感じるようにあの頃の音楽を懐かしく聴くことができる。
 ただ、躁鬱の激しいデッドはある日バンドが借りていた山奥の一軒家で両腕と首をナイフで切り、最後にはショットガンで頭を吹き飛ばすという壮絶な最期を遂げる。このあたりの描写はかなり生々しくリアルで気持ち悪いので、ダメな人はダメだろうな。
 第一発見者のユーロニモスはあろうことかそれを写真に撮り、後にその写真をアルバムのジャケットして使用する。また、散乱した頭蓋骨の一部をペンダントにしてメンバーに渡すが、ドラマーは「すげえ!」と言ってすぐに受け取るのに対し、ベーシストは「なんじゃそりゃ!やってられるか!」と拒絶し、自転車に乗って(自転車というのが少し悲しい)彼らの元を去る。そりゃそうだ。まともな神経ならそうするよね。ちなみにYOUTUBEには生前のデッドを撮影した映像があり、映画はこの一軒家をほぼ忠実に再現していることが分かる。映画を見た後にそれを見ると何とも不思議な気持ちに
なる。

         本物のデッドやユーロニモス

      一軒家を引き払ったユーロニモスは自身のレーベルを立ち上げ、親の金を借りてメタルレコードショップ「ヘルヴェテ(地獄)」をオープンさせる。地獄とか言っている割に両親からサイン入りの花鉢を送られ、それをさりげなく仲間から見えないように隠すユーロニモス。このあたり、ブラックメタルだとか悪魔崇拝だとか言っているくせに、実は家族大好きという側面が描写されている。
 そのヘルヴェテでユーロニモスと仲間たちは好き勝手に毎日楽しく過ごしていた。面白いのは彼らの一人が店でずうっとスプラッタムービーを観ているのだけれど、サム・ライミ出世作死霊のはらわた」とかあの`指輪物語`ピーター・ジャクソンの「ブレインデッド」であったりする訳で。もうね、あのころの俺か!90年代当時僕はメタルを聴いてスプラッタムービーを観て毎日を過ごしていたのですよ。メタルボンクラとしてマインドが同じすぎる。


 

 そんなある日スコーピオンズと決別したクリスチャンがヘルヴェテにやってくる。クリスチャンは陳列してあったスコーピオンズのレコードを指して「本物だけを扱う店じゃ?」と挑発する。ユーロニモスはそれを受けて、本物を探し当ててみろ、と答える。勉強したクリスチャンは数枚のレコードを選ぶが、その一枚目がソドムの「サインオブイーブル」で笑った。そうして店でレコードをかけると、一曲目の「アウトブレイクオブイーブル」がかかってさらに爆笑。

                 

 いやあ、この面白さ、当時これを聴いていた僕かあの頃の友人ならわかるのになあ。この映画一応メタルを題材にしているので小ネタが沢山あるのですよ。


 クリスチャンは自分はヴァーグと改名したと宣言し(そりゃ悪魔崇拝者がクリスチャンじゃねえ)、彼一人で録音したブラックメタルのテープをユーロ二モスに手渡す。ユーロニモスはヴァーグの才能を認め、レコーディングを手助けする(そのレコーディング資金はヴァーグの母親が出した)。

 人気が出て調子に乗ったヴァーグは自分が真のブラックメタルの体現者だとして教会に放火し、仲間内で一層そのカリスマを高めていく。これがきっかけとなり、ヴァーグはさらに数件の教会を燃やし、「俺が本物だ!お前も付き合え」とユーロニモスに迫る。

 あんまり乗り気ではなかったユーロニモスだけれど、ブラックメタル創始者としての体面を保つため、ヴァーグと一緒に教会を燃やしに行く。ヴァーグは時限装置付きのダイナマイトを持参し、犯行を試みるが、作動せず。「なんだよ!」とか言っている横でユーロニモスは聖書に火を付け、どんどん燃え上がる教会。燃え上がる教会を見ながら笑う二人。そしてこの時の二人のセリフ

「AM I EVIL?」

「YES I AM!」

でオールドメタルファンに目配せをする。

 この「AM I EVIL」はダイアモンド・ヘッドというバンドの曲で、メタリカが頻繁にカヴァーしたことでかなり有名な曲なのだ。僕も大学生の時この曲をバンドでやったもんだ。

               ベースはクリフ・バートンのライヴ

       

 さて、教会燃やし競争が激化し、「誰が一番邪悪か」がヒートアップしていく中、ヘルヴェテでスプラッタムーヴィーばかり観ていた店員のファウストという人物がパブで自分を誘ってきたおっさんをめった刺しにする!ついに事態は殺人にまで及んでしまうのだ。さらには殺人祝いと称してまた別の教会を三人で燃やす始末。しかし内心ユーロニモスは穏やかでなく、常に警察が自分をマークしているのではと疑心暗鬼に憑りつかれる。


 そういや僕の大学時代、パワー合戦と称して誰が一番くだらない行為をできるかということやってたが、内容的にはこれとほぼ同じだな。邪悪さのレベルは段違いだけれど。例えば酔っぱらって道路に大の字になってみたり、他人が鼻かんだティッシュを食ってみたりなどしょうもないことばかりでした。それでもそれを現場で見ていた僕らは大笑いし、「どうだ!俺のほうがパワー!おまえら赤子同然!」などと叫んでいた。いい青春でしょ。


 さて邪悪パワー合戦の果てはどうなったのか。
 ヴァーグは雑誌のインタビューに応じ、速攻で逮捕されるが証拠不十分で釈放される。このことが大々的に報じられるが、とばっちりを受けたユーロニモスは店を畳まざるを得なくなる。ユーロニモスはその際に「ヴァーグをスタンガンで気絶させて森の木に縛り付けて拷問してやる」と悪態をつくが、これを真に受けた仲間がヴァーグにこれを報告。それを聞いたヴァーグは逆上し、ナイフを持ってユーロニモス宅に押しかけ、彼を刺し殺してしまう。

 このあたり、映画のクライマックスだが、いやな緊張感で一杯。そして部屋の外に逃げたユーロニモスを追い、執拗に刺し続けるのだ。ユーロニモスはその短い生涯を閉じ、ヴァーグは逮捕され、何とも言えない嫌な感じで映画は終わる。


 ブラックメタルデスメタルは死を前面に出してその世界観を作ってはいるが、本当にやっちゃ駄目だよね。それは明らかに作り物と分かるスプラッタムービーと同じく、あくまでフィクションの世界で成り立つものであるのだから。だからこそ僕は部屋にカンニバルコープスのレコードを飾り、日常的にデスメタルを聴くことができるのだ。

 

 ちなみにヴァーグはその後出所し(一度逃亡を図りつかまる)、現在も音楽を作り著作をしています。
 この事件は様々なメタルシーンに影響を与えているが、あのメタリカも題材にしており、非常に興味深い。このビデオはなんと、映画の出演者がそのままメタリカの曲をパフォーマンス。メイヘムがメタリカを演奏というある意味ものすごいビデオ。コメントは八千件を超え、いかにメタルファンがこの曲に反応したかがよくわかる。

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まあ、映画を見る限りはヴァーグはヤバすぎですな。彼がどうしてこのような行動原理を持っていたのかはあまり描写されないのでその辺は不明だけれど、ユーロニモスは結果的に実はバンドを有名にしたいポーザーであったという印象もぬぐえない。救いないね。

 

 これに比べれば同じ北欧デスメタルをテーマにした『ヘヴィ・トリップ』のなんと平和なことか!

  

 一年前に書いたヘヴィトリップの記事ですよ

  

 

 いやあ、久々に書いた書いたの四千文字。ここまでたどり着いた方、どうもありがとうございました。服とかラムオブゴッドの新譜とか小説「三体」とか、書きたいネタはちらほらあるのだけれど何せ年のせいか書くのがおっくうでねえ。また来世!

 

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