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夢一夜

 こんな夢を見た。

 東京駅だらう、自分は新幹線に乗ってゐる。乗ってゐると云っても坐ってゐるわけではなく、中学生の長女が座席に坐ってゐるのを傍から立って見守ってゐるだけだ。

 新幹線と云う割には、なぜか窓はなく、座席も五人で一列でありその一番端っこに黒いズボンを履いて彼女は坐ってゐるのである。座席は皆埋まって居り、誰ひとり声を上げぬ。

 無論長女も無言である。自分のとなりには細君が立って居り彼女もまた無言である。

 軽い衝撃を感じたのでどうやら新幹線は動き始めたらしい。長女はこのまま一人で九州に行かねばならぬ。そして現地で学校の担任の先生が彼女を待って居り、そこでようやく大人の保護の下となるのだ。自分と細君は新宿で降りねばならぬ。ふと新幹線は新宿に止まるのか知らんと思ったが、それを細君に問うても訝しげな顔をしてこちらを見るだけだ。九州までは4時間かかるらしい。その間、長女はこの場所にたったひとり坐りっぱなしである。

 父親として非常に不安な気持ちを抱えたまま新宿に到着する。我々はここで降りねばならぬ。挨拶もそこそこに電車を降りた。

 しかし自分はいつの間にか寝込んでしまったらしく、気がついたら見知らぬ列車に乗っていた。細君の姿はどこにもない。どうやら自分は見捨てられたらしい。窓の外を見ると非常に天気が良く、空には刷毛でさあっと掃いたような雲が浮かんでゐる。

 慌てて電車を降りると駅名の看板が見えた。

「長崎伯仲駅」

 と書いてある。

 はて、小田急線にそんな名前の駅があったのだらうか、全く思い出せないまま自分はホームを歩き出すことにした。一体ここはどこだ。皆目見当もつかぬ。線路はまっすぐに向こうへと伸びており、その向こうには青い山が稜線もなだらかにくっきりとした姿を誇っている。

 こちらのホームは下りらしく、反対側にもホームが見える。駅舎はなく、屋根もない。人影はまばらだが、動きはある。柵越しにロータリーが見え、そのロータリーの中心はかなり広い芝生の広場である。

 自分はまずここが日本のどこかと決定する必要があると思った。そこでホームのどこかに地図はないかと探し始めた。しかし、地図は一向に見つからぬ。おそらく神奈川県のどこかであらうとは思うのだが果たして長崎伯仲などという場所が神奈川にあっただらうか。そのうちに一枚の絵を見つけた。緑の半島が海へと突き出しているだけの簡潔な図で、その先に矢印が刻まれている。どうやらここは海の近くらしい。となると三浦半島あたりなのだらうか。

 しかし相変わらず場所を特定できぬので一旦ホームを戻ることにする。すると先程は気がつなかったのだが、柵にTVモニターが貼り付けてあるではないか。おそらくこの土地の紹介になっているに違いないと思った自分は食い入るようにそれを見つめた。ところがそこに映し出されている絵は、小さなせせらぎが砂利を透かして見せている綺麗な河川へと流れ込む映像のみである。

 全く参考にならないのでどうしたものかと逡巡した挙句、上りの列車に乗れば新宿へと帰れることに気がついた。折しも向かい側のホームには列車が来るという構内放送が流れているではないか。

 自分は全力疾走で反対側のホームへと向かう階段へと向かい駆け上った。

 階段を降りきったところに一人の腹の出た中年男性が立っていた。

 彼はピンクのポロシャツに身を包み、右手には煙草を挟んでいた。銘柄はきっと敷島であらう。どこかテレビで見たことのある顔でもある。しかし名前は思い出せぬ。とにかく自分は急いでいた。しかしその男はこちらの姿を認めるとおもむろに近づいて来て自分の手にその敷島を押し付けようとするではないか!

 驚いた自分はあなたそれは傷害じゃないですかと叫び糾弾した。しかし男はアルカイック・スマイルを浮かべたまま再び敷島を自分の手に押し付けようとしてくるのだ。自分は彼を何度も押し、傷害だ、傷害だと叫び続けた。すると突然ホームに銀色の窓のない、箱のような電車が一両編成で飛び込んできた。自分ははっと我に帰った。この電車に乗らねばならぬ。

 そこで自分は駆け出し、まろびつつ電車に飛び込んだ。電車の中は誰も居らず、照明がついて明るかった。外から見た様に窓はなくただの部屋のやうでもある。そうして一気に進行方向へと運動を始めた。間髪をいれずドアの開く音が聴こえる。

 

 「ガラガラ!おとうさん、おはよう!」

 「あれ?小5の娘?今何時?7時?ピンクのポロシャツのおじさんは?うわあ、久々にストーリー性のある夢みたなあ!」

 

 人の夢ほどつまらないものはないですね。こちらは唯一の例外

夢十夜

夢十夜

 

 

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