ホーガンのコチラ、読みました。面白かった!
- 作者: ジェイムズ・P.ホーガン,James P. Hogan,内田昌之
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2000/03
- メディア: 文庫
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冒頭、ある男が小型のロボットのような機械で暗殺される。これからの不穏な展開を示唆する始まり方だ。そして舞台はエリック・ヒーバーという科学者が経営するニューロダイン社という会社へと移る。ここでもやはり10センチ程度のものから、さらに小さなロボットを人間に神経接続して操作する事業を展開している。この技術が確立されればその用途は途方もない。ちなみにこのロボットは劇中『工作員』と呼ばれる。なんとも絶妙なネーミングだ。
会社ではエリックの息子である15歳のケヴィンとその友人タキ(日系人)が彼らの独得な発想を買われて自由に工作員を操作している。そこへタキのおじであるオオヒラが若く美しい弁護士ミシェルを連れて現れる。オオヒラは少年たちが工作員を使って遊んでいる様子を見てそこに大きなビジネスチャンスを見出したのだ。そしてその価値があるかどうかをミシェルに見極めてもらおうとする。
ミシェルは工作員を実際に操作し驚愕する。しかしその後エリックとケヴィンの自宅でさらに驚くべきものを見る。それは少年たちが箱庭に昆虫たちを放し、その中を冒険する「バグ・パーク」(英語の原題もこちら)であった。そこでミシェルはエリックの妻ヴァネッサに出会うがなにか違和感のある印象を受ける。知性を持ち合わせながらもファッション誌から出てきたようなヴァネッサは、どうにもエリックにふさわしくない女性なのだ。
このあたり、導入部なんだけど正直あまり読み進む気がしなかった。ホーガンの作品といえばやはり『星を継ぐもの』のような冒頭からグイグイと引き込まれるような展開が魅力である。この「ミクロ・パーク」はそういう感じがあまりなくて、少年たちのやり取りなどいまいちのめりこめなかった。
しかし、中盤ヴァネッサの荷物に偶然紛れ込んだ工作員を起動したケヴィンが、実はヴァネッサはエリックを殺してその特許を自分の物にしようとしていることを知ってしまうあたりから俄然面白みを増してくる。冒頭の男(なんと元ヴァネッサの夫で弁護士。彼女の計画に不利な脅迫をしていた)もヴァネッサによって暗殺されていたのだ!
エリックの妻ヴァネッサは野心的な女性で以前エリックと共にマイクロ・ロボティクス社という企業に勤めていた。エリックが会社の方針に従わなかったのでヴァネッサも退社したのだがその一方でロボティクス社長のパリスと関係を持っており、エリックを工作員によって暗殺する計画を立てていたのだ。
ホーガンの小説ではこのような、主人公もしくは主人公側が不利な状況に陥ったとき、何らかの形で相手の知らぬ間に敵の動きを察知しているというケースが多い。 ご都合主義が否めない部分もあるが、だからこそストーリーは起伏のあるものとなる。
ケヴィンは父親の危機を回避するために会社の技術者ダグ・コーフにそのことを打ち明け、ミシェルにも協力を要請する。そして暗殺の証拠をつかむため、秘密に工作員を何体もロボティクス社の弁護士の事務所へ送り込むが警報にひっかっかり気づかれてしまい、ミシェルは拉致されてしまう。コーフは彼女を助けるために奔走するが警察は取り合ってくれない。ミシェルはヴァネッサに引き合わされ、ヴァネッサが特殊なスーツを来ているのを見て暗殺の実行日がその日だと理解する。ケヴィンは工作員を通してそのやり取りを見ていたがヴァネッサに気づかれ、逆にシステムを操作され神経接続したまま身動きがとれなくなってしまう。
なんとか脱出を試みるケヴィンはちょうど父エリックの車に別コードで起動する工作員二体があることを思いだし、接続する。するとまさにそこではヴァネッサの暗殺工作員がエリックを狙っているところだった。
とにかくこの場面はまさに手に汗握るような展開で夢中になって読める。狭い車内で誰にも気づかれずに格闘する工作員どうしの対決はアクションとどんでん返しが詰め込まれており、なぜこの小説が映画化されないのか不思議なくらいである。後半は一気に物語が収束し、時間も忘れて読んでしまった。
ヴァネッサはとんでもない悪女で、読者は彼女が徐々にやり込められる姿を読んで痛快に思うだろう。結末もちょっとやり過ぎかとも思えるけれども、文句なしのハッピーエンドであった。ちょっと毛色の変わったSFをお読みになりたい方にオススメですよ!