音楽と本

僕のカルチャーセレクトショップ

読んだ本、これから読む本

 一応「音楽と本」を謳っているので、読んだ本や本に関する最近の出来事をば、記しておきます。

 かなり長い間本棚にあって、しかも読んでいなかった本をようやく消化。

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 「日本の幽霊」は小説ではなく、随筆。民俗学的に伝統的な日本の幽霊を解読しており、「場所に現れる幽霊」と「人を目指す幽霊」などと考察していた。こういうのって結構僕途中で飽きる傾向があるのだけれど、不思議と最後まで読み通した。でももうほぼ内容を覚えていない・・・。

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 「交歓」は倉橋由美子の円熟の筆致が味わえる佳作。主人公は夫を失った40がらみの「桂子さん」。ただ倉橋由美子なので自然主義的な悲壮な作品ではない。そもそも桂子さんは親から譲り受けた出版社を経営する美人である。ハイソサエティの人で、生活には困らない優雅な生活を送っている人である。そうして多くの知的な会話を交わすことができる人々と様々な交流を通して「歓び」を交わしてゆく。最終的には将来は首相クラスを目指す有能な金持ちの男性と交歓し、一緒にその人とお風呂に入っておしまい。変な終わり方。

 会話の端々に文学的ペダンティズムが散りばめられており、読者を試す。特に漢詩漢文学に関する会話が多く、興味がないとつまらないだろう。しかし逆に知っていれば理解がより深まるという面白さがこの小説にはある。例えば広瀬淡窓の「桂林荘雑詠」が出てくるけれども、この「桂」の字に関しての桂子さんとの共通点が語られたりする。

 そんで今ウィキで倉橋由美子を調べたら、「桂子さんシリーズ」「桂子さんの物語」と称される筆者の他の作品群があることを知った。『ポポイ』『シュンポシオン』などがそうらしいが、僕どちらも持っていて、しかも読んだが全然知らんかった。後で読み直そう。『アマノン国往還記』も持っているのだけど、幻想色が強く、なんか途中でやめちゃった記憶がある。

 倉橋由美子は初期の『蠍たち』とか『悪い夏』・『雑人撲滅週間』みたいなアンモラルで残酷な作品が好きだったけど、中期・後期の作品も味わいがあってよろしいです。

 

                次の二冊。

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 いつ読もうかと思っていた『芭蕉』は少年少女向けに書かれた分かりやすい内容であっという間に読めた。芭蕉忍者説とか怪しげな話もあるが、実際はこの中に描かれたひたすらに自らの道を究め、旅にさすらう姿が本当の芭蕉に近いのだろう。そういえば昔

           行く春や鳥啼き魚の目は泪

の解釈に関して考えたことがあった。特に「魚の目は泪(なみだ)」の部分は、よく「泳いでいる魚が泣いているのだ」みたいに解されていてどうも腑に落ちなかったのだけど誰かの本で「芭蕉が出立前に食べた白魚の目の潤みをみて泪にした」という説がしっくりきたことを思い出した。

 水上勉の『男色』(だんじき)はもうかなり前に買ったと思うのだけど、本棚の上の方にあって忘れていたのをふと見つけて取り出したのだ。まず昔の本は装丁がいいね。

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 僕はあまりに著作の多いこの作家をそんなに読んだことはない。確か『五番町夕霧楼』『霧と影』『越後つついし親不知』くらいだろうか。特に『越後つついし~』はあまりに悲惨な展開で暗い気分になったことを覚えている。他の小説にもこの作品と同じような展開があって、一体どういうことなのだろうと思った記憶あり。

 『男色』は作者を髣髴とさせる作家が主人公で、彼が博多の街で久しぶりに雅美という20歳ほどの若者と再会するところから始まる。以前はバーテンダーをしていた雅美であるが再会した時には彼はゲイであった。作家は雅美の人生に興味を持ち、雅美が各地を転々とするようになっても彼の店へ足しげく通うようになる。とはいえ作家はノンケであるのでゴリゴリの男色ストーリーではなく、むしろ雅美と、それを取りまくゲイたちの生活に好奇心をそそられていく。

 私小説の体裁をとってはいるが、そこは太宰治のようにフィクションとの境界をあいまいにしているのだろう。ひとはそれぞれに自分の物語があり、それぞれ精一杯生きているということを確認させられる小説だった。

 

 そういえば、江戸川乱歩の貴重な資料が焼けてしまったというニュースが最近あったけれど、奇妙なシンクロニシティでたまたま僕は乱歩の『緑衣の鬼』を読み終えたところだった。これもたまたま本棚に会った乱歩全集からピックアップして読んだのであったけれど、今読んでもトリックのセンスが素晴らしく、犯人は何となく見当がつくものの今読んでも十分に楽しめる怪奇推理小説であった。

 

 さて、仕事場の図書館へふらりと立ち寄った時に、書庫からの放出品が段ボール何箱かで置いてあり、何の気なしに見たところ宝の山だった!とりあえず持てるだけもらってきたのが15冊。

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 風呂で読む本がそろそろなくなって、またブックオフで200円くらいの本をたくさん買おうかなと思っていた矢先、なんという僥倖。

 僕の住んでいる地区の図書館もたまにこういう放出品セールをやっているのだけれど、本当にしょうもないビジネス本とかが中心でなにも得るところがないのだけれど、この度は大豊作だった。太宰治津島佑子の親子で置いてあったり、遠藤周作筒井康隆などメジャーな作家がポンポンあるではないか。

        これなんか買う気にはならないが、ただならもらうよ!

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 さてとりあえず風呂に入る前にひょいと抜いた本はこちら。

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 『御隠居忍法』という秀逸なタイトルであるが、内容も充実。短編の連作であるがそれぞれに関連性がありご隠居(とはいえ40大後半)のスーパーマンっぷりを楽しむとすぐに読めてしまう。風呂で読むにはちょうど良い面白さ。他にもシリーズ化されているようで、ひょっとしたらまた放出されているかもしれないので見に行こう。

 

 ようやく二度目のワクチン接種が終わったのですが、なんとなくだるい(熱はナシ)のでここまでです。これが副反応か。一回目は大丈夫だったんだけどなあ。

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