大学生の時の友人の一人で、今でもバンド仲間として付き合いがあるT君はゴルゴ13が好きだった。彼の家に行くと全巻とは言わないまでも結構な巻数が揃っており、僕は比較的近くに住んでいたのでしょっちゅう彼の家に寄ってはゴロゴロしながらゴルゴ13を読みふけっていた。
T君は今でもそうなのだが楽しい人物で、例えば寝るという行為に関してもこだわりがあった。とういうのも彼はどうしても眠くなり、我慢ができないレベルになって摂る睡眠が一番気持ちの良いという主張の持ち主だったのだ。だから深夜彼の家の近くを通っても必ずと言っていいほど電灯がついており、それを確認した僕は彼の家に立ち寄り、ポリスを聴いて歌ったり、アイアン・メイデンを聴いたりしていた。
今思えば彼の部屋はテレビがなく、従ってファミコン(当時はまだスーファミが主流)などをするわけでもなく、何をして過ごしていたのだろう。そうそう、バンドを一緒にやっていたから、コピーするバンドのテープを大音量で流し、僕は生音でベースを弾き、彼は枕やその他近くにあるものを叩き、シャドウドラム(彼のドラムプレイはキース・ムーンばりの派手さがある)に興じたりもした。僕は今でもその当時を何とも言えない充実感をもって思い出すことができるのだ。深夜、近くのパルテノン多摩の公園を徘徊し、自転車で爆走したのもいい思い出。
先ほどのT君の睡眠の話に戻ると、とにかく彼は朝方まで(9時頃なんてのはザラ)無理やり起きていることが多かった。ではどうやってそれまで時間を潰しているのかといえば、例のゴルゴ13を延々読み続けるのがほぼほぼだった。きっと読みさしで寝たことも何度もあったのだろうな。
あとー、どうでもいいけど彼は行きつけの床屋に「ゴルゴ屋」という呼称を与えていた。なぜかというと、その床屋の待合コーナーにはゴルゴ13が全巻揃っているからなのだという。いや、別にゴルゴ売ってるわけじゃないでしょ。
他にも彼は大学に着いたはいいが、突然火の不始末(彼はヘビースモーカーだった)が心配になり、消防署に
「今日多摩センターのあたりで火事はありませんでしたか?」
などとしょっちゅう電話で聞いていた。面白いでしょ。また、GWに彼と飲みたい。
その後GWに彼と遊んだ話はこちら
さて、健さんのゴルゴ13はどうだったか。千葉ちゃんゴルゴの強烈な印象のあとに観たこちらは、正直パワー不足の感は否めない。とはいえオリエンタルな雰囲気の不思議な映画ではある。
これを見るとかなりワクワクするけど
イラン革命前のイランで全編ロケを敢行し、日本人はなんと健さん一人で、あとは全員外国人(というかほぼイラン人)。オープニングで出てくるクレジットが全員イラン人!そしてまたカタカナ表記のその名前の異世界感がすごい。
マシンチャン、アラヒョリ、ラメザニ、モクタリ、ガタキチャンなど、次から次へといつか何かの参考にしたい名前ばかりです。しかし実はもっと重大な問題が発生。
肝心の健さんがゴルゴに見えない!
なんだろう、眉毛が違うからなのかな?千葉ちゃんゴルゴはもみあげとかパンチパーマとか、目の辺りのメイクでかなり見た目をゴルゴに寄せていたのに対して、健さんはいかにもそのまま・・・。だからネット上の評判を見ても「東映の健さん」にしか見えないというものがほとんどだ。東映やくざ映画をイランに持ってきただけという。
しかし僕はその違和感を味わうべく楽しく観ましたよ。
ストーリーはイランの悪の組織の親玉が女性を誘拐しているのでそいつをやっつけに行く、というのが基本構成。
ゴルゴを雇い入れたとある政府の秘密機関は10時にホテルへゴルゴを呼ぶが、その時間に部屋に現れたのはウェイター。そして同時に電話が鳴る。
「このお時間に電話をかけろと言われましたもので」
という内容だ。そして再び戸口を見ると健さんが!
なんだこの子供騙し!しかしその場の外国人たちは「見事だ」などと健さんを誉めそやす始末。ゴルゴを手助けする女性諜報員キャサリンと共にイラン入りするゴルゴ。
一方イランでも現地警察の刑事アマンが悪の組織のボスを追っていたが一向に手がかりがつかめない。そのうちになんとアマンの妻までもが誘拐されてしまう。
ゴルゴはゴルゴで色々と探し回った結果、盲目の殺し屋ワルターに目をつける。ワルターはゴルゴが絡んでいることを察知してボスのボアに連絡をすると、それならとパリから腕利きの殺し屋サイモンとダグラスを呼ぶ。ダグラスは片足を引きずる、どこかクセのある殺し屋だ。ワルターの屋敷に到着した2人は手下にぞんざいな対応をされる。その態度に腹を立てたダグラスは手下を撃ち殺す。この映画、紙より命が軽い。ワルターもワルターで、
「すまない、あんたちが来ることを前もって部下たちに知らせておかなかったもんでね」
の一言で済ませてしまう。なにそのゆるゆる組織。殺された奴の立つ瀬、全くなし。彼にも家族や生活があっただろうに!
黒幕のボアは情緒不安定なおじいちゃん。いつも肩に止まらせている緑色のトリを溺愛しており、情婦がタバコを吸っていると突如激怒し彼女をひっぱたく。かと思うと急に猫なで声になったりキャラが安定しない。この時点ではまだ後ろ姿しか現れず007におけるプローフェルド状態。
とにかくゴルゴは手に入れた情報をもとに鳥を肩にとまらせた男を狙い、ワルターのアジトと思しき場所でその男を撃ち殺すが、実はそれは罠で捕まってしまう。
「なぜトリを肩にとまらせた男を撃った!言え!」
とムチでしばかれてもだんまりを決め込む健さんゴルゴ。健さんの体、無駄なく引き締まっている。そこにかかってきた電話を盗み聞きする健さん。これが彼の目的だったのだ。こうなったらこんな所に用はない、絶体絶命のピンチだが、健さんは隙をついて縄を解き、見張りの男を殺す。異変に気付いたワルターは電気を消して
「暗闇なら目の見えない俺の方が有利だな」
などとうそぶき音の気配で健さんを追い詰める。しかし健さんは冷蔵庫のドアをパカっと開け、その明かりで難なくワルターの位置をつかみ勝利!
その後、殺し屋の片割れダグラス(義足が武器隠しというギミックになっているのだがそれを生かしきれず犬死に)をぶち殺し、ボアをついに狙撃しようとするが、同じ格好をさせた男を何人も影武者として用意し、悠々と中庭でお茶を飲むボアの奸智に困る健さん。
しかし健さんはテーブルに置かれた鳥かごを撃って鳥を逃がし、その鳥がとまった男をボアだと見抜く。だが、ダグラスの敵を討つ執念に取り憑かれたサイモンに邪魔をされ、逆に助けに来たキャサリンは拉致されてしまう。
ボアを追う過程で砂漠でのカーチェイスがあり、それなりの迫力がある。何せ最後にはひっくり返った敵の車の上を健さんのベンツが蹂躙するのだからすごい。よく車ひっくりがえらなかったな!
ゴルゴに恐れをなしたボアはサイモンに命じて女たちを丘に立たせ、ゴルゴが助けに来たところを殺す作戦を立てる。物陰に隠れて様子を伺うゴルゴ。と、そこに刑事アマンが単身乗り込み勝手に名乗りを上げて妻を救出しようとする。
サイモンはゴルゴが姿を現さなかったら女を一人ずつ殺すと宣言する。困り顔の健さんだが(健さんゴルゴはなんだかいつも困り顔)ひとり殺されても出て行かない。そしてキャサリンの番になる。キャサリンは「ゴルゴ!出てきちゃダメ!」と死を覚悟する。困り顔の健さんだが、やはり出て行かず、キャサリンは撃ち殺される。
ここにおいて、ボアはゴルゴの非情さを思い知らされ、後をサイモンに託して逃げ出す。アマンは妻を救出するために大奮闘するが、凶弾に倒れ絶命。泣き崩れる妻。この展開、いる?
ゴルゴは急いでベンツでボアの後を追うが、サイモンのヘリに阻まれ仕方なく車を捨て、ライフルでサイモンを仕留める。
そしてここからの展開が全く意味不明なのだけれど、延々健さんがライフルを持って砂漠をさまよう様子が映し出される。倒れては立ち上がり、の繰り返し。この場面が結構長いのだ。
そうして健さんが倒れ込んで画面が切り替わるとボアが湖畔の別荘で悠々とお茶を飲んでいるシーンに切り替わる。そして唐突に黒いサリーをまとった健さん登場!狙いをボアの額に定めて発泡!あっけなくボア死亡。
一旦は銃を下ろす健さんだったが何を思ったか、もう一度スコープを覗き込む。その先にはボアの可愛がっていたトリの姿。
バーン!
頭を吹き飛ばされるトリ!
ひでえ!
思わず声に出してしまった。その必要あるの?そうして夕日とともに「完」の文字。
なんだこの終わり方!最高!
さあ、今度はどんな映画を観るかな!
読んで読んで