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『ガニメデの優しい巨人』を今頃読んだ話 続き

 古いけれども今読んでも十分に読み応えのある『ガニメデの優しい巨人』のこと。

ガニメデの優しい巨人 (創元SF文庫)

ガニメデの優しい巨人 (創元SF文庫)

 

  超光速による二千五百万年の長い航海を経てガニメアンの宇宙船『シャピアロン号』はガニメデから発せられた重力波をキャッチしその姿を現した。そしてそこで人類とのファーストコンタクトが行われ、科学者ヴィクター・ハントはガニメアンのコンピュータ「ゾラック」を通じて徐々に彼らと親しくなってゆく。

 

 地球人に歓迎されたガニメアンはひとまずガニメデの基地に滞在し旅の疲れを癒す。クリス、ダンチェッカーを中心とした科学者たちは、ガメニアンの科学者シローヒンから今はなき第五惑星ミネルヴァの詳細な情報を聞き出す。

 ミネルヴァが太陽から遠い距離にあったのにも関わらず、なぜ生命が発生することになったのか。それはミネルヴァの旺盛な火山活動による二酸化炭素温室効果によるものだった。ミネルヴァの二酸化炭素は生命にとって絶妙なバランスで保たれており、そのうちに生命が発生したのだった。生命はやがて魚類となったのだが、体の構造上3つのグループに分かれた。肉食のもの、毒を持ち草食のもの、毒を持たない草食のものへと。結局生存に最も有利な毒を持つ草食のものが進化し、陸上へ上がり、そのまま草食獣へとなった。そうして進化の枝は最終的にガニメアンにたどり着いたのだ。

 

 捕食や生存競争ということを長い間経験してこなかった生命は、いきおい温厚な性格を持つようになり、それは現在のガニメアンの性質そのものとなった。だから彼らは戦争や競争という概念を知らず、ひたすら協調と慈愛の生活を営み続けていたのだ。

 

 進化したガニメアンはやがて文明を築き上げ、大いに繁栄したがあるときミネルヴァの気候に異変が生じ始める。二酸化炭素による温室効果が低下しはじめたのだ。放っておけばミネルヴァは氷の惑星となり、このままでは種の滅亡は時間の問題だ。

 様々な生存への道を模索したガニメアンは地球への移住も視野へと入れたがこの頃の地球には月がなく(月はミネルヴァの衛星だった)狂風の吹き荒れる環境に弱肉強食の世界が展開されていたのだった。

 それでもガニメアンは実験的に地球での居住実験をした結果、それは破滅的なものに終わったという。ある種の絶滅と地域の壊滅である。ガニメアンの性質から言ってこれは許されざる結末だった。

 

 最終的にガニメアンたちは太陽に人工的に刺激を当て活動を活発化させ太陽温度をあげようという途方もない計画を思いつく。しかし慎重な性格のガニメアンはまずは太陽と似たような恒星イスカリスで実験することにしたのだ。そしてその役目を背負ったシャピアロン号は冒頭のように宇宙の漂流者となった。

 

 ガニメアンの話を聞き唖然とする地球人たち。『星を継ぐもの』では月が実はミネルヴァの衛星だったというサプライズがあったが、この『ガニメデ〜』でもこのようないくつかの驚くべき事実が明らかにされゆく。ホーガンがすごいのは宇宙に関する知識だけではなく、生命の進化ということについても彼なりの理論を持って話を進めているところだ。読者は緻密に構築されたストーリーを興味深く追ってゆくのだ。

 

 そしてガニメアンはついに地球へと降り立つ。熱狂的な歓迎を受けるガニメアンたち。彼らの地球人に対する認識は根本から崩れていった。なぜなら彼らの知っている地球の生物は攻撃的で好戦的な性質の持ち主だったからだ。そこから進化した地球人がこのような世界を作り上げたことに彼らは畏怖すら覚える。

 

 一方ハントとダンチェッカーはガニメアンたちがある世代から自分たちに遺伝子操作を行い、外傷に強い体構造を獲得したことに気づく(その一方で二酸化炭素への耐性が失われたという)。そしてその調査をする過程でハントはある疑問を抱く。というのは彼らのコンピュータ、ゾラックとの会話でどんな過程を経ても原始の地球の動物が知的生物へと進化する可能性はないというのだ。

 しかし実際には2500万年前にガニメアンによってミネルヴァへ実験のために連れてこられた生物たちの中からホモ・サピエンスが生まれた。ガニメアンがミネルヴァを去った後、ホモサピエンスはさらに進化し、ルナリアンとなってミネルヴァで繁栄し、惑星を巻き込む戦争を起こし、自らミネルヴァを破壊して滅びた。そして月にいたわずかなルナリアンたちが地球の衛星となった月から何らかの手段で地球へと降り、現人類の祖先となったのだ。これはいったいどういうことだ?

 

 この疑問が『ガニメデの優しい巨人』の最大の謎解きにある。ホーガンは『星を継ぐもの』では月に関する謎を提示した。そして今回はなんと人類の起源に関する謎解きを提示したのだ。

 

 数ヶ月の地球滞在の後、ガニメアンたちは不確かではあるが同胞たちが移住したと思われる「巨人の星」と呼ばれる星系へ向けて旅立つ。そして彼らのあいだでだけ知られる事実が明らかになる。

 人類はガニメアンによって創造されたのだ。ガニメアンの指導者がルースはそれを明かさぬまま地球を後にする。ガニメアンの手で無理やりミネルヴァに連れてこられ、見捨てられた人類はその旺盛なバイタリティで進化し、生き抜いた。そして今では太陽系を支配するまでに進化した。彼ら人類こそが『星を継ぐもの』であり、太陽系はガニメアンの居るべき場所ではないとガルースは結論づけたのだ。そして万に一つの可能性にかけ、彼らは巨人の星を目指す。

 

 一方地球ではダンチェッカーが人類進化の謎を解いていた。気難しく、気高いこのキャラクターの面目躍如である。つまりガニメアンは地球の生物に遺伝子操作を加えることにより二酸化炭素への耐性を上げることを目論んだ。そしてそれがうまくいった暁にはその遺伝子情報を自分たちに植え付けるつもりだったのである。驚愕するハント。

 

 しかしその試みは失敗したらしい。結果的にはガニメアンたちはミネルヴァを脱出し、見捨てられた地球生物だけが残された。人類は遺伝子操作の失敗の産物であり、それを知ったガルースたちは自責の念に囚われたのだ。その事実を彼らのいない地球でハントたちは知り、ガニメアンたちの将来を思いやるのだった。

 

 しかし、エピローグで物語は新たな展開を見せる。通信に何年もかかるはずの巨人の星から返信があったのだ。しかも、英文で。こうして物語は『巨人たちの星』へと続くのだ・・・。

 

 疲れました。誰のために書いているのだろう、僕は?僕自身のため?

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