小学生の僕と弟。めちゃくちゃおしゃれ。服は母親の手作り。
僕は高校に入学して吹奏楽部に入った。本当は軽音楽部に入りたかったのだが、僕の高校はそんなものはなくて、そもそも学祭でバンドなど許されない教育方針の学校だった。仕方がないので小学校でのトランペットの経験もあったし、音楽に触れていたいと思ったので吹奏楽部の戸を叩いたのだ。しかし、すでにトランペットの定員はオーバーしており、同じ管楽器ということで僕はいきなりトロンボーンを担当することになった。ホルンの先輩に連れて行かれた練習場所の教室には、僕より先に入部した「ぶうちゃん」がひとりぶぅーぶぅーとトロンボーンを鳴らしていた。
ぶうちゃんというあだ名だが、別に彼は太っているわけでなく、むしろ痩せぎすで、ひょうろりひょろりとした感じの、まるで葦のような物腰だった。本人もそのあだ名の由来はよくわからないらしい。
彼はとても優しい性格で、なおかつナチュラルにユニークだった。物事をすべて自然に受け入れるという感じだった。僕はどっちかというと理詰めでモノを考える性格だが、逆にその違いがよかったのか、ぶうちゃんとはすぐに仲良くなった。
ぶうちゃんのその頃の口癖は
「意味ねー」
だった。
ことあるごとに色々なことを言ってはその後、「意味ねー!」を連発していた。意味のあるようなことでも「いみねー!」と言っていたから特にその言葉自体には重みはないのだが、そのイミネー!が独特なフレージングだったので、みんなのあいだで結構流行った。
「この曲、トロンボーンのパート少ないけど、ラッパのところも吹いちゃう?イミネー!」
とか
「あっ、今日英語ないのに英語の教科書持ってきちゃった!イミネー!」
みたいな感じだった。ちなみにぶうちゃんは全ての教科書をとりあえずカバンにぶち込んでいたのでいつもカバンがパンパンだった。
かなり仲良くなって、結構遠かったにもかかわらずお互いの家を行き来して遊んでいたのだが、彼の趣味がまた強烈だった。
ぶうちゃんはオカルトマニアだったのだ。
本当に信じているのかどうかはよくわからなかったが、彼の愛読書は学研の「ムー」。かの有名なオカルト雑誌だ。
こうやって今でもまだ出版されているのだから人気は根強い。
当時その記事を見て僕は結構たまげたものだ。特に読者のお便りコーナーには
「バーマヤーナ・・・この言葉に共鳴した人は私にご連絡ください」
「私は前世妖精の○○でした。心当たりのある方はご連絡ください」
などと書いてあり、住所が記載されていた。共鳴した人はいたのだろうか。
初めてぶうちゃんの家に行った時に、彼の勉強机のとなりに何やら方眼紙で作られた一辺が30センチくらいの三角錐が置いてあるのに気づいた。形はいわゆるピラミッド型である。
「ぶうちゃん、これ何?底に輪っかみたいのがついてるけど、これどうするの?」
「これはさー、勉強するときにこうやって頭にかぶるんだよー」
と言いながらぶうちゃんはスポンと方眼紙のピラミッドを頭に装着。間抜け。
「わははははははは」
それを見た瞬間、僕は大爆笑。ぶうちゃんも大爆笑。
「わらうなよー!ピラミッドパワーが出てるんだぜー」
と弁解がましくぶうちゃんは言う。
彼は本気でそれをかぶって勉強していたらしかったが、結局浪人した。
他にも彼はムーの広告を通して怪しげなグッズに何万もお金を使っていた。
例えば、超能力が込められたカセットテープ。それを再生すると、ふわふわとしたシンセの音が漂ってきて、おじさんがしゃべりだす。
「いま、から、わた、しの、パワーを、あな、たの、もと、へ、注入しまーすー」
たしかこんな感じで始まった。そうしてあとは片面30分延々と
「うぁー!うぉ!うふうーうぉっ!」
という超能力を注入する声が流れ続ける。
我慢して聞いていると最後は
「終わりましたーうぁー・・・・」
うぁー・・・じゃないよ!僕があんまりのことに
「なにこれ?すげーインチキじゃん!こんなのに一万円も払ったの?」
と言うとぶうちゃんは
「馬鹿にすんなよー、馬鹿にするとエネルギーが薄れるんだからさー」
と少し悲しそうな顔で言った。薄れるって何?
カセットテープを裏返すと、無音状態がこれまた30分続くのだが、この無音にもパワーが込められているとのことだ。そしてまた
「こんなん、嘘に決まってんじゃん!意味ねー!」
「馬鹿にすんなよー」
という会話が繰り返される。楽しかった。
この怪しげなカセットテープシリーズは他にもあって、多分新興宗教がらみかもしれないけれど最初に
「ありーがーとうーござーいまあーすー」
というフレーズの合唱が流れたあと、宇宙人が憑依するおばちゃんが登場するというものもあった。
それがまたなんというか不思議な内容だった。男性の質問者が二人いて、そのおばちゃんに憑依した(たしか)オリオン星人?だかに、色々と聞くのだ。
質問者
「ひょっとしてアメリカが押し付けた、6・3・3・4の教育制度も、オリオン星人のせいですか?」
おばちゃん
「あーもちろん、そうだよ。ぜーんぶわたしたちがやった」
質問者
「なるほど・・・やっぱりそうだったのか」
どういう質問だ。僕がうろ覚えの質問はこんなものだったが、他の質問とて大差なかった。もっと宇宙の真理について聞くと思えば、実に形而下の内容ばかり。そうして最後には突然おばちゃんが
「たーんたかたん!たーんたんたん!」
とヘンな歌を歌ったと思ったら突然、ドシン!と倒れる音がするではないか。
質問者A
「逃げたか?」
質問者B
「いや・・・多分・・・抹殺」
・・・どういう結末ですか。
しかし僕はこの部分があんまりインパクトがあったので何度もぶうちゃんに再生させては大笑いしていた。その度に彼は
「馬鹿にすんなよー!」
と言いながらも聞かせてくれたっけ。
ぶうちゃんの思い出はあまりに濃いので、明日に続きます。
この小説がですね、悲しいほど人気がないのです。面白いはずなんだけどなあ・・・
一方こちらはじわじわとPVが増えています。面白いと思うんですよ、一部の方には。