腕くみて
このごろ思ふ
大いなる敵目の前に踊り出でよと
これは石川啄木の短歌で、歌集『一握の砂』に収録されているものです。
落ち込んだ時に読むとよいです
なんで唐突にこの歌を掲げたかというと、この間我が事業所にメガトン級のクレームが来たからなのだ。
あまり詳しくは書けないけれど、とにかく同僚がとあるミスをして、それを軽い気持ちで先方に謝罪したところ、相手が女性だったということもあるのか突如激昂し、罵倒の嵐。そばで聞いていても向こうの怒りが伝わるほどの大声。
「ふーざけないでー!」
という印象的なフレーズが何回も飛び出し、よほど自制心を失っているのかとにかく大声でまくし立てている。
同僚は
「あの、えー、申し訳ありません」
を細々と繰り返すのみ。そうして埒があかなくなり、一応この事業所の長である僕に電話が回ってきた。
さてここでも
「ふーざけないでー!」
フレーズを中心としたお叱りの言葉が僕に襲いかかる。
正直いいとばっちりだが、責任者なので
「はい、もうすみません、おっしゃる通りです」
という、相手の言い分全肯定クレーム回避フレーズを連発。
なんで50にもなっておばさんに怒られているのだ僕は。
状況によっては訴えも辞さないくらいの勢いで迫ってくるので、どうしたものかと思い、とりあえず上の者と相談し、その上でどうするか対処すると伝えると、じゃ二時間後にそちらに伺いますとなった。この間、20分以上怒られっぱなし。
青ざめる同僚。同僚っつっても僕より先輩で年上なんだけど。
とりあえず状況を社長に電話で伝える。社長は半分隠居しているようなものなので、あまり知らせるのもなんだと思ったんだけど、仕方がない。
電話に出るおじいちゃん社長、もう勘弁してくれという感じで困惑。とりあえずこちらで出来るだけのことはすると伝え業務に戻る。その間、業務全て中断。
2時間後に総務部長が社長の命を受けこちらに菓子折り持ってやってくる。いやもう困ったねーなどと言いながら先方を待っていると、電話がかかってきて、とりあえず今日のところは行くのをやめて、そちらの具体的な対処を聞かせてもらうということになった。そこで(その日は土曜日だったので)週明けにまたお電話しますということになった。当事者の同僚は言わずものがなだが、責任者である僕まで暗い気持ちで家路につく。おれ、なんも、わるいことしとらんのに。
しかし、僕は最近さすがにいい大人になってそれなりの経験を積んだのである程度物事を客観的に受け止めることもできるようになった。だから、いやだなあ、と思う一方で
「この件をうまく対処できれば、あとどんなクレーム来ても大丈夫でしょ」
などとも思ったのだ。だから半分嫌ではあるけれども、一方では経験値を稼ぐことができるという目論見(?)も持っていて不思議な気持ちで過ごしました。
なにか困難があれば人間は成長することができるだろう。それは僕のような年齢になったって変わらない。ということでその時僕は冒頭の
腕くみて
このごろ思ふ
大いなる敵目の前に踊り出でよと
という啄木の歌を思い浮かべたのですよ。
週明け電話をするとまだご立腹の様子。ただ、今までの僕の顔もあるので先方は僕に対しては信頼を持ってくれており、それでなんとかつながっている感じ。同僚に対しては辛辣な言葉を並べ結局それを僕が再び20分ほど聞かされるという繰り返し。でも大丈夫、啄木の歌を心に持っているから!
さて提案した対処案に難色を示されたので再び代案を考えざるを得ない僕。責任者って面倒だな!大して給料ないのにさ!反映して欲しいよね、まったく。
そうして次の日すっきりしない気持ちを抱えて迎える。
しかもこの日は結構スケジュールが立て込んでいたのです。まず午前中は長女の合同音楽発表会を見学に、文化センターへ朝の10時から出かける。嫌な気分に包まれながらも舞台に立つ娘の姿を見ると自然と笑みもこぼれ、しばしはそちらで気が紛れる。しかしその後すぐに会社で会議、そうして事業所に到着し山のような業務をこなし、4時になって先方へ電話。
新たな案を提示したところ、さすがに向こうも怒りが収まってきたのかだいぶトーンダウンしていてなんか溜飲が下がっている様子で拍子抜け。結局元の状態に戻り、なんとか丸く収まった・・・。
まあ向こうは僕がいるから、ということで許してくれたところもあるらしく、雨降って地固まるということわざをまさに地でゆく展開に。とにかく良かったですよ。
菓子折りは結局受け取ってくれなかったので皆で食べることにしました。
今日みたいな回、珍しいでしょ