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浴室読書日記/アーサー・C・クラーク『楽園の泉』

                 真ん中の本です。

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 誰ひとり気にしてはいないだろうけど、以前このシリーズで記事を書き、中断してしまっていた最後の三冊目なのです。  

  

 

『楽園の泉』は宇宙エレベーターを作る話。

楽園の泉 (ハヤカワ文庫SF)

楽園の泉 (ハヤカワ文庫SF)

 

  人類が宇宙へ進出し始めた頃、ロケット打ち上げにかかるコストが問題となっていた。地球建設公社の技術部長ヴァーニー・モーガンはとある強力な素材の実用化を機に、宇宙エレベーターの建設を構想する。地球から宇宙ステーションをつなぐエレベーターを作れば、ロケットよりも安全かつ、コストが飛躍的に解消するのだ。それにはまず赤道に近い標高の高い山からの建設が必要となり、その場所に選ばれたのが長い歴史を誇るタブロバニー(架空の島国で、クラークが当時住んでいたスリランカを想定している)。

 序盤は宗教的、政治的背景の説明が続き、誰が主人公なのかもイマイチわからないまま物語が進み、おぼろげにモーガンがその主軸になっているとわかってくる。モーガンは大陸を横断する巨大な橋を建造した実績があり、宇宙エレベーターの実現に向けプロジェクトを推し進めてゆく。

 

 後半になるとほとんどこのモーガンの話になる。途中、なぜか異星人の「スターグライダー」なる宇宙船が太陽系で発見されるエピソードがあり、時間軸なども多少入り乱れて戸惑う。この異星人の話はなくてもいいんじゃないの・・・というより、こちらのエピソードの方が魅力的で、別の話としてまた展開できそうな気もするけどね。

 とにかく数百キロに渡る宇宙エレベーターの建設が中心となっており、ほとんど完成に近づいたとき、予想だにしない事故が起こる。その事故の解決のため、開発者のモーガンは70近い年齢と健康の不安にもかかわらず、カプセル状の乗り物で数百キロ上空のステーションへと向かう。

 この後様々な形でモーガンを苦難が襲う。このあたりはクラークの小説作法なのか、『渇きの海』でもそうだったのだけれどギリギリのところまでピンチを設定し、読者を引きずり込む手法はさすがだ。まあたいていの場合成功するんですけど。僕はまだまだクラーク初心者、死ぬまでにもっと読みたい。

 

 字数がなんとなく寂しいので、過去読んだSFで何か面白いのあったかなーと考え、まず最初に思い浮かんだこちらを紹介して本日はさよならです。

重力の影 (ハヤカワ文庫SF)

重力の影 (ハヤカワ文庫SF)

 

 

超ひも理論」という僕には理解不能な物理学の理論をワシントン大学で研究しているデイヴィッドは自身の装置が異次元(別の宇宙)と空間を交換する機能があることを偶然に発見する。それを美人の研究助手(もう名前忘れた。確かめるのも面倒)と共にさらに追究しようとするのだが、偶然その装置に目をつけたある企業の幹部が、それを自身のものにしようと人を殺すことも厭わないスパイ(=実行部隊)を送り込む。

 研究室で襲われそうになったデイヴィッドは咄嗟に装置を作動させて友人の子供達と共に別宇宙へと飛ぶ。装置がなくなった(その際、悪人の一人の腕も一緒になくなる)は共同研究者の美人助手を拉致する。このあたり薬を打たれたり、かなりハラハラさせられるのだが、デイヴィッドは異世界と地球の対応する座標を割り出し、なんと悪人の首をちょんぎって窮地を脱する。そうしてうまいこと地球に戻り、技術を世界中に公開して(こんなことしたら悪用する国家や人間が出てくるのではないか、という危惧は置いておいて)、大団円。当然ディヴィッドとヒロインは結ばれる。

 

 異世界での生物の描写やサバイバルの様子が面白く、ヒロインが助かるのかどうかなど、前半ののっぺりした展開に比べ後半は、結構手に汗握る展開になる。SFは作品によるけれど、どある程度前半を我慢してその世界の設定なりを理解すれば、後半は至高のエンターティメントを味わうことができる作品が多い。この作品はまさにそんな作品の典型だと思いますよ。

 

ヘビーメタルエンターテインメント、のつもりです